闇鍋

就活で東京に来て、友達の家に泊まらせてもらっている。

お互いに鍋が食べたいね、と舌の調子が一致して、友達おすすめのお鍋屋さんに行ってみた。が、すでに満席だったので、家で鍋をすることにした。

 

豆乳鍋のもと、目玉商品の豚肉、水餃子、はくさい、ねぎ、えのき、木綿どうふ。スーパーで適当にかごに入れていく。冬みかんのほろよいも忘れずに。この前スーパーのマネキンアルバイトでお酒を売っていたときに、冬みかんがとても人気だったので、気になっていた。

 

おじゃまします、と入るなり、あ、大事なことを忘れてた、と友達。昨日、リビングの電球切れたんだった。

そんなことある?闇鍋になっちゃうよ、と笑う。彼女は切れた電球を持って、ふたたびスーパーへ戻っていった。

その間にわたしは留守番をしながら、買ってきた野菜たちと豆腐を切っていく。YouTubeでカネコアヤノの音楽をかけながら。帰ってきたらすぐに閉じるから、彼女には秘密だ。

 

 キッチンは静かだった。静か。聞こえるのは好きな音楽だけ。帰ってくる親友を待っている。ふたりで食べるものをこしらえながら。

友達も多くて前向きで、とにかく楽しい人なのだけど、どうしてずっと友達でいてくれるのか分からないくらい、私と正反対の人間だった。外向的、内向的。スポーツが好き、文化系のことが好き。テニスがうまい、へた。勉強を教える側と教えられる側。たぶん共通点はフットワークが軽いことくらい。

不思議だったな、私は外から見たら意味のわからない人間だったろうに。それを気に留めず、ひとりの人間として関わってくれようとした、その恩は今も感じている。

 

 

ふたりで、火が通っているか確認しながら、おそるおそる口に運んでいく。お目当ての電球は結局売っていなかったらしい。女子大生ふたりがテレビの光を頼りに鍋をつつく姿は、なかなか滑稽だ。

彼女は外国の瓶ビールをぽんと開ける。私はほろよいをグラスに注いだ。ひとつだけ共通点があった。ふたりはこうして、ふたりでなんでもない時間を過ごすのが好きだ。怒涛の毎日で、共通点が少ないからこそ、敵だとは思っていなかったし、その違いをおもしろがっていたのだと思う。

 

 

いつだか、彼女がうちに泊まりに来たとき、ふたり揃って計画した時間よりもすっかり遅れて、お昼前に起きたことがあった。前夜に借りたレンタルDVDを返しに行った道すがら、「寝坊しても○○とならいいやって気がする」と言われた。誰かにとっての気のおけない存在であることが、こんなにも嬉しいとは思っていなくて、ぼんやり幸せだったことを覚えている。

 

目の前で2本目の瓶ビールをぽんと開ける彼女は、同じことを思っているだろうか。同じ気がする。まあ、私がそう思っているから、いいのだ。