怒る先輩が好き

大好きな先輩について書く。

とても穏やかな話し方をする人である。どんな話をするときにも、ゆっくり、語尾まで聞き取りやすい口調で語りかけてくれるし、相槌もていねいだ。

 

先日、一緒にごはんに行った。自粛期間中も何度か通話していたから、そこまで久しぶりな感じはしなかったけれど、食事を共にできることがただうれしい。

ランチにしてはちょっとお高めの、御膳をいただきながら、積もる話を発散しあう。

 

先輩は、だいたいいつも、何かに怒っている。

聞いてよー、と切り出して、周囲の理不尽な言動から、自分にはちょっと理解できない環境、恋人がなかなか痩せてくれないことなんかについてまで、たいていぷりぷりしている。

 

先輩の怒り方が、実はけっこう好きだ。

怒りを感じてもすぐには表に出さない先輩の優しさがうかがえるし、まくしたてないので、聞く側が嫌な気分に全くならない。「ほんと、困っちゃうよね」というニュアンスである。むしろ怒っているときですらにこにことしている。
内容と感情が分離されている感じがして、冷静に聞かせてくれる。

「怒る人」がとっても苦手だったのだが、思うに負の感情をそのままぶつけられる怒りが苦手なのであって、内容自体はあまり関係ないのだと気がついた。むしろ、負の感情ゲージが高まりがちな話こそ、こうやって穏やかに語るのが相手のためだな、と先輩を見て学ぶ。

愚痴や弱音や嫌いを封じすぎていると、人と人間的に関わることができなくて苦労する。自分の外部に対する負の感情を否定しない方法を探っていたけれど、こうやって淡々と語ることなら、いいかもしれない。

 

自分の外のせいにするのは未熟なのではないか、なんて先輩は言っていたけれど、全力で否定したい。先輩の怒り方はとっても素敵です。

 

遅めの誕生日プレゼント、と、お化粧品をくれた。それから他愛もない話と、将来の話を。
自分の考えについてきちんと話をしたいと思える人、そして受け止めてくれると確信できる人は貴重で、真剣に話を聞いてくれることに慣れなくてくすぐったいけど、幸せな気分になる。こうして縁をつなぎとめてくれていることに、とても感謝している。

これからもときどき遊んで、いい怒り方を思い出させてください。